人事も経理も従業員も幸せに。紙から働き方を変える【給与明細編】

全てのビジネスパーソンにとって身近でありながら、難解で分かりにくいイメージを抱かれがちな給与明細。「手取り」の項目だけ確認して放置したままの方も多いのではないでしょうか。しかし給与明細には、自分が働いて得たお金に関する情報がぎっしり詰まっており、漏れやミスがないよう要所をきちんと押さえておくことは重要です。

一方、立場を変えてみると、会社の経理部の方にとって、従業員全員の給与明細の作成や交付に要する手間は相当なもの。これらの労力やコスト削減、そしてペーパーレス化といった社会の潮流もあって、給与明細の電子化を検討している会社も多いことでしょう。さらには海外の先進事例を参考にしつつ、給与の情報開示など模索中の人事担当者もいるかもしれません。

このように従来の「紙」からスタイルも意義も転換期を迎えている給与明細。従業員、人事、経理部門担当者それぞれの働き方がどのように影響を受け、働き方が変化するか考えてみましょう。

基本の3大要素に分けると理解しやすい。給与明細の見方

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従業員として毎月、給与明細を受け取るものの、「何が書かれているか分からない」という方のために、最低限知っておくべき基本を説明しましょう。

給与明細は、大きく「勤怠」「支給」「控除」の3つのブロックに分かれています。

1つめの「勤怠」は、出勤や欠勤、休日出勤の日数や残業時間といった勤務状況が書かれたブロックです。特に残業時間や休日出勤日数は、残業代を計算する基となる重要な数字。実態と齟齬(そご)がないように注意したいもの。

2つめの「支給」は、会社からもらうお金の明細が書かれたブロック。「基本給」に諸手当を加えた額が給料の総支給額(額面)となります。会社によっては、後述しますが、会社によってさまざまな名前の手当を別途支給することがあり、会社の主義主張や従業員への配慮が浮かび上がる箇所です。こちらも読み落としがないようにしたいものです。

基本給…給料のベースになる金額。

時間外手当…いわゆる「残業代」。

通勤手当…通勤にかかる交通費の実費。1カ月10万円まで非課税です。

資格手当…資格取得に対して支給される手当。会社によって異なります。

家族手当、住宅手当など…扶養家族がいる社員に「家族手当」を支払ったり、住居費の補助として「住宅手当」を支給したり、会社によって異なります。

3つめは「控除」、つまり給料から引かれるお金です。

健康保険料…病気やケガのとき、医療費の負担を軽くしてくれるのが健康保険。社員の出産に際しては出産手当金、病気やケガで会社を休んだときは傷病手当金などが支給されます。なお、40歳以上の人は介護保険料も上乗せされます。健康保険と介護保険の保険料は、会社と社員が2分の1ずつ負担します。

厚生年金保険料…高齢になったときや障害を負ったり死亡したときに年金を受け取るために加入するのが厚生年金保険です。保険料は会社と社員が2分の1ずつ負担します。

雇用保険料…失業給付が支払われる保険です。保険料の6割強を会社が負担し、残りを社員が負担します。

所得税…給与所得にかかる税金で、国に支払うもの。概算額が毎月の給料から引かれ、12月の年末調整で正しい税額と精算されます。

住民税…給与所得にかかる税金で、住んでいる市区町村に支払うもの。税率は市区町村によって違います。

最後に、「支給」欄の合計額から、「控除」欄の合計額を引いた差引支給額が、実際に給与振込口座に振り込まれる「手取り額」となります。

会社ごとの働き方が見えてくる?千差万別、ユニークな「手当」

「勤怠」「支給」「控除」の3要素に分けて、給与明細の見方を簡単に解説しました。なお、会社によって様々な項目が表れるのが「手当」です。「支給」の中に含まれるものです。ユニークな事例を紹介しましょう。

子どもが生まれると100万円支給「次世代育成一時金」(大和ハウス工業)

こども

少子化の歯止めに少しでも貢献したいという思いと、生まれてくる子どもたちは将来、顧客になるという観点から創設されました。

自転車通勤手当&保険費負担(はてな)

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会社には駐輪場が整備されており、自転車通勤している従業員には月2万円の手当を支給。また自転車通勤中の事故も配慮し、損害賠償保険費も会社が負担。

上記のように、給与明細を見ていくと、「会社が自分にどのようにお金を払っているか」が見えてきます。特に例示したような独特の手当は、「会社の経営方針やメッセージを社員と共有するもの」とも言い換えられます。会社の信念を再確認し、自分の働き方を見直すためにも、今まで読み流していた給与明細をもう一度手にとってみてはどうでしょう。

アメリカで増加中!?「給与の情報開示」で変わる人事部門や従業員の働き方

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上記のように、給与明細は個人情報そのものです。しかし役割やポジションによっては、おおよその給与水準を推測可能としている会社もあります。特にアメリカでは全従業員の給与に関する情報を社内で公開する雇用主が増えつつあり、従業員の給与額公開について是非をめぐる論議が活発化しています。

給与情報を開示することで、どのようなメリット、デメリットがあり、従業員の働き方をどう変えるのでしょう。

メリット:給与支給の透明性→格差是正

どのようなパフォーマンスや役割を担えばいくらの給与が妥当か」を明示する事で、給与支給の透明性が高まり、従業員のモチベーションアップにつながることが期待できます。また、給与の透明性を高めることで、男女間での給与格差是正にもよい影響が期待できるとの声も聞かれます。

デメリット:給与決定メカニズムの徹底化→人事担当者の負担増

今まで給与額や賞与額の決定プロセスを公開していなかったのは、「なぜ、その給与額や賞与額になったのかを論理的に説明することができない」という理由によるところが多いからでもあります。給与情報の開示をすることで、適切で合理的な給与・賞与決定メカニズム整備を徹底化する必要が生じ、人事担当者の負担が増加する可能性があります。

とはいえ、企業サイドが給与情報を非公開にしていても、最近では、匿名で社員や元社員が自らの情報を提供し、ネット上で具体的な金額が公開されることも稀ではありません。また、たとえばTHE WALL STREET JOURNALでも、アメリカで行われた調査に基づき、「給与情報を共有すると従業員はよく働く」という結果を今年6月に発表しています。

給与情報や決定メカニズムの開示は、社員のパフォーマンス向上や優秀な社員の維持獲得の観点からも、今後、より一般化していく可能性があると考えられます。

給与明細の電子化と、経理担当者や従業員の働き方の変化

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給与明細作成、交付などに伴うわずらわしさを解消するシステムとして、電子給与明細が脚光を浴びています。給与明細を電子化するメリット、デメリットは下記のとおりです。これらによって、経理担当者や従業員の従来の負担が軽減され、より働きやすい環境が整うことが期待されます。

メリット1:コストおよび負担の削減

最大のメリットは、紙による給与明細の時に必要だった用紙代や印刷代、郵送費などを削減できることです。さらに、従業員への配布・郵送作業もなくなり、経理担当者などの負担が大幅に軽減されます。

メリット2:セキュリティリスクの軽減

電子化することで、セキュリティ面でのメリットが期待されます。特に外回りの多い従業員を多く擁する会社の場合、紙の給与明細を机の引き出しに入れておくといったケースが多くあるはずです。電子化できれば専用の画面やメールアドレスへの自動送信により間違いなく本人へ明細を送付でき、従業員にとっても安心感と利便性の向上につながります。会社を不在にしがちの従業員にとっては、働きやすさが増すシステムといえます。

メリット3:インターネットを活用した社員サービス向上

紙での給与明細を従業員が受け取る場合、保管の難しさが問題でした。電子化により、過去の給与明細の情報を見たいといった従業員の要望に対し、再発行の手続きをすることなく、数年前の給与明細も簡単に閲覧できるようになります。

ただし、これは裏返していえば電子給与明細のデメリットでもあります。インターネット上に各人の給与明細のデータが蓄積されてしまうため、給与という個人情報を自分1人では管理・処分しきれない可能性があります。担当者は、従業員からの信頼に応えるべく、セキュリティリスクを熟知し情報の取り扱いに十分注意を払う必要が生じます。

担当者の負担源、従業員のモチベーション。給与明細から変えられる働き方

今回は、定期的に配布されながらも、見過ごされがちな給与明細に焦点を当てました。ペーパーレス化やコスト削減といった社会の流れに応じ、これまで「紙」が当然だった給与明細は、情報開示や電子給与明細という形で変化を遂げつつあります。これに伴い、人事、経理各担当者の負担軽減が図られると同時に、従業員は、モチベーションを高めつつ自分の給与内容と向き合いながら働けるスタイルへ展開を見せようとしています。

会社自体がさらなる成長を遂げるための戦略の一つとして、給与明細に着目してみてはいかがでしょうか。