「電子政府」は実在した!元エストニア経済通信省局次長が語る、ペーパーレス国家の働き方

電子政府、もしくは電子国家という言葉をご存知ですか?

「コンピュータネットワークやデータベース技術を利用した政府」を意味する言葉で「e-政府」、「e-government」とも呼ばれています。行政手続き、または企業間のやり取りをオンライン化、そしてペーパーレス化することで、コストの削減や業務効率化、サービスの質の向上、情報開示などを実現可能にする政府の在り方を指します。

日本でも2001年に「e-JAPAN戦略」と銘打ち、「5年間で世界最先端の情報通信技術(ICT)国家になる」という目標を掲げ、情報通信基盤の整備や、電子政府向けアプリケーション開発に進めています。2016年1月から運用が始まったマイナンバー制度の導入もその一環。デジタル社会の構築を目指すものです。

1991年に旧ソ連から再独立した人口約130万人の小国・エストニア共和国は、デジタル社会を実現した“未来型国家”としてその名を知られています。

今回、Paper Hackでは、エストニア経済通信省・経済開発部の局次長を務めたしたラウル・アリキヴィ氏にインタビューを行いました。

電子政府・エストニアのデジタル社会の実態とその働き方とは—

電子政府は“マイナンバー”的カードと、“国家版クラウドサービス”の合わせ技で実現した

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ラウル・アリキヴィ氏
1979年 エストニア生まれ
2002年 エストニア・タルトゥ大学卒業
2005年 早稲田大学修士課程修了。エストニア経済通信省入省。
2007-12年 エストニア経済通信省の経済開発部で局次長を務める。2020年に向けたエストニア情報社会のための戦略と政策の設計を担当。
2012年 日本にてコンサルティング会社ESTASIAを設立し、アジアにエストニアの行政システムなどを紹介している。
2013年 日本のクラフトビールを欧州へ輸入するBIIRUを設立。
2016年 IoT系スタートアップ企業Planetwayのヨーロッパ支社である、Planetway Europeを設立。

—こんにちは。よろしくお願いします。エストニアの政府や企業の働き方を伺う前に、エストニアがどのように電子政府を実現していったのか教えてください!

アリキヴィ:はい。まず電子政府を成し遂げるためのインフラの説明が必要でしょう。エストニアでは、2002年にeID(Estnian ID)カードが配布されました。15歳以上のすべての国民に所持が義務付けられていて、国民にとってこれがない生活は考えられません。「電子署名機能」があり、行政や民間企業のサービスを利用する時はもちろん、民間企業間の取引でも効力を持ちます。

—なるほど。日本でも似たように2016年からマイナンバー制度がスタートしました。しかし、何かのサービスを利用できるようなメリットはまだまだ感じられないのが現状です。

アリキヴィ:エストニアでもeIDカードが浸透するのには時間がかかりました。発行された当初は、「車の窓に付いた霜を削ぎ落とすのにちょうどいいカードだ!」なんて言われていました(笑)。

ただ、5年ほどたったころでしょうか。eIDカードが政府だけでなく民間企業の様々なサービスを利用するために必要になり、誰もが使うようになりました。

そして、もう1つの重要なインフラが「X-Road」というシステムです。社会保障や医療、金融などのシステムを統合して構築されていて、国民一人ひとりのあらゆる公的情報が蓄積されています。eIDカードで用いてインターネットで自分のデータを確認し、管理することができるのです。

—国全体がクラウドサービスを用いているイメージですね。

アリキヴィ:はい。現在のように一般的にクラウドコンピューティングシステムが世の中に浸透する前からありました。なので、「クラウド」という言葉が出てきた時も、みんな「どういうものなんだ?」とは思ったのですが、エストニアでは国の基盤としてずっと前からあった。「別に新しくないな」という感覚でした。

閣議の時間が3分の1以下に!政府や民間企業でのペーパーレスな働き方

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—エストニア政府での働き方について、伺いたいのですが、やはり電子政府というだけあって「紙」は使っていないのでしょうか。

アリキヴィ:そうですね。政府の会議で紙の資料を使う事は一切ありませんね。政府の閣議は完全にペーパーレス。資料は前日にサーバにアップされてるので、参加者は皆、事前にチェックして閣議に臨みます。

そうなると本番では、問題のない話題は特に何も話すことなく終わり、相談すべきことのみ話し合います。過去と比べると、すごくスピードが上がりましたね。

エストニアでは、「e-cabinet」というシステムを利用した電子閣議の実施により、毎週の閣議の時間が従来の4〜5時間から30〜60分に短縮。用紙コスト、コピー費は1年当たり約19万ユーロ(約2150万円)削減された。環境負荷の低減に加え、意思決定プロセスの明確化も報告されている。

https://e-estonia.com/component/e-cabinet/

アリキヴィ:少し昔の話になりますが、私が参加したEUのミーティングがあって、隣の席がドイツの人たちでした。彼らは紙の資料を見ていたのですが、同じ資料を私たちはPCで見ていた。さらに、何かが決定してサインする場面でも、彼らが直筆でサインを回している間に、私たちは電子署名ですぐに終わらせていましたね。

—民間の企業も、やはりペーパーレス化が進んでいるのでしょうか。

アリキヴィ:会社によるとは思います。ただ、政府とのやりとりが全てオンライン上で行われるので、当然、紙は少ないと思います。社内の業務でいえば、SaaS(Software as a Service)を利用しているような企業は多いかと思います。

—国、政府が主導した働き方が、民間企業の働き方にも浸透していると言えますね。

アリキヴィ:一つ言えるのは、eIDカードもそうですが、電子署名の力があるということですね。例えば、日本で企業同士が紙の書類をやり取りしている間に、エストニアの企業間ではそれがオンラインで、5分程度で終わります。そうですね、やはり紙のプリントをすること自体、少ないと思います。

エストニア人はFAXを使ったことがない!?

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—日本では、スタートアップなどの新しい企業がペーパーレスな働き方を推し進めても、昔からある企業には紙のやりとりを重視する体質、価値観が根強く、スピーディに移行できていないケースもあるように感じます。

アリキヴィ:日本人は、“紙の成果”に上司が慣れ過ぎているように感じます(笑)。うまく使いすぎているというか……。あまり問題が発生していないのでは。

—なんとなく、わかります……。エストニアでは、さまざまな電子化に移行していく中で、そういったレガシーな体質からの脱却に、苦労はなかったのですか?

アリキヴィ:「移行期」がなかったように思います。一つの例ですが、エストニアではFAXを使った人がほとんどいないんです。というのも、ちょうどFAXの文化を飛び越して、e-mailでやりとりしていたので。

—すごいですね。

アリキヴィ:日本にいて思いますが、これまでの“心地よいやり方”を一度乗り越えれば、必ず仕事の効率は上がる。新しいことや違うことができるようになるイメージですね。

先ほど話したように、会議の時間が減り、政策のスピードが上がったこともそう。また、私は今、日本で働いていますが、オフィスを持っていません。その他の国にいても、eIDカードの電子認証によってエストニアでのビジネスを進める事ができています。

—なるほど。まさにクラウドサービスを利用したノマドワークのような考え方ですね!

アリキヴィ:とにかく、やはり紙はないほうがいい(笑)。効率が良くないものだと思います。

—はい。本日はありがとうございました!

「電子政府」から、日本の企業が、個人が学ぶべきこと

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今回は日本から遠く離れ、欧州で存在感を放つ、とある電子政府の事例を紹介しました。確かに、日本とエストニアとでは歴史も人口も規模に違いがあります。一概に比較できるものではありません。しかし、「こんな国があるんだ」という一言で済ませていていいのでしょうか。

日本も「e-JAPAN戦略」を打ち出してから約15年。デジタル社会の足音は確実に近づいてます。マイナンバー制度の導入も始まりました。

政策という形で電子化を進め、紙のない働き方を実現し、生産性を上げようとする国が存在する事実。グローバル化した現代社会において、私たちの国の企業が学ぶべきことは、必ずあるはずです。